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なぜ人は当たらない「大穴」を買ってしまうのか|ギャンブルの高配当枠が不利な理由

本命大穴バイアス

競馬で、一発高額配当を夢見て極めて来る可能性の低い馬券を買ってしまう。あるいはカジノで、配当はが高いが出現率が低いゾロ目やタイにベットしてしまう。

当たる確率が低いと知りながらも、なぜ人はこうした「大穴」系の選択肢を好んでしまうのでしょうか。

これは「本命-大穴バイアス(Favorite-Longshot Bias)」と呼ばれる現象です。ついやってしまう「大穴狙い」について、行動経済学の視点から、その仕組みをわかりやすく解説します。

目次

本命-大穴バイアスとは

勝ち馬投票券

本命-大穴バイアス(Favorite-Longshot Bias、略してFLB)とは、「大穴馬は実際の確率より過大評価される」という歪みのことです。

このバイアスが学術的に初めて記録されたのは1949年。心理学者のR・M・グリフィスが競馬のオッズデータを分析し、「大穴への賭けは、本命馬への賭けと比べて、平均的なリターンが著しく低い」ことを発見しました。その後70年以上にわたって、世界各国の競馬市場・スポーツベッティング・さらには金融市場においても繰り返し確認されてきた、非常に頑健な現象です。

競馬では一般的に、本命馬(オッズ1〜2倍台)への賭けの期待値は控除率を差し引いても比較的高く、一方で大穴馬(オッズ10倍以上)への賭けは期待値がさらに低くなることがデータで示されています。つまり、「夢を買っている」分だけ、余分に損をしている構造になっているのです。

大穴を買ってしまうメカニズム

馬券を握りしめる手

なんとも非合理な行動に見えますが、でも実際には、多くの人が同じ行動をとってしまうからその結果に収束しているわけです。なぜそうなってしまうのか、その理由を解き明かしてくれるのが、行動経済学の金字塔であるプロスペクト理論です。

小さな確率を「過大評価」してしまう

1979年、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが提唱したプロスペクト理論の中に「確率加重関数」という概念があります。人間は確率をそのまま正確に認識できず、小さな確率を実際より大きく感じ、大きな確率を実際より小さく感じるという特性を持っています。

たとえば「1%の確率で100万円が当たる」という状況。数学的な期待値は1万円ですが、1%という確率が脳の中では3〜4%くらいに感じられ、多くの人が1万円以上の価値を感じてしまうのです。

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「もしかしたら当たるかも」という興奮そのものに価値を感じる

大穴を買うことのもうひとつの理由は、期待値とは別の「ドキドキ感」や「夢」への支払いです。大穴を買うことで「もしかしたら大逆転があるかも」という体験自体に価値を見出しているのです。

ただしそれ自体は悪いことではありません。むしろギャンブルは儲けようとするより「楽しい」と思える範囲でやることのほうが、本来あるべき姿でしょう。それが「合理的な投資」ではなく「楽しみへの支出」であることを自覚している人は少ない、というのが問題の本質です。

損失を極端に嫌う「損失回避」の裏返し

もうひとつの核心が、人間は同じ金額の「得」より「損」を約2倍強く感じるという非対称性です。ほぼ確で来ると踏んでいた本命が負けると強いガッカリ感がありますが、大穴に賭けて負けると「まあ仕方ない」と受け入れやすい。一方で、大穴が当たれば「奇跡が起きた!」という強烈な喜びが得られます。この非対称な感情設計が、大穴への過剰なベットを生み出しているのです。

カジノでも同じことが起きている

本命-大穴バイアスはカジノのゲームでも同じ構造が見られます。

大小のゾロ目ベット

サイコロ3つを使う大小(シックボー)では、「大(11〜17)」や「小(4〜10)」に賭けるとハウスエッジは約2.8%です。ところが、特定のゾロ目(例:ゾロ目の1)に賭けると、見かけ上の配当は150〜180倍(カジノによる)と魅力的ながら、ハウスエッジ(控除率)はなんど16~30%にも跳ね上がります。配当の大きさに引き寄せられて、実際には最も割の悪いベットを選んでしまう。ハウスエッジのことを知らなかったとしても、そもそも当たる確率自体が低いにも関わらずベットしてしまう人が多いのは、「当たれば高配当」という夢が、現実の期待値以上に過大評価されてしまうからです。

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バカラのタイベットやサイドベット

バカラで最も人気のある「タイ(引き分け)」ベットは配当8倍と魅力的に見えますが、ハウスエッジはなんと14%以上。バンカーやプレイヤーへのベット(ハウスエッジ1〜1.2%台)と比べると、約10倍以上も不利な賭けです。それでもタイに賭けたくなるのは、「引き分けというレアな結果+大きな配当」への期待を、脳が過大評価してしまうからです。タイ以外にも最近は豊富なサイドベットが登場していますが、いずれもハウスエッジが非常に高いのでご注意ください。

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バイアスを知ることが、賢いプレイの第一歩

こうして見ると、カジノで「配当が大きいベット」は、ほぼハウスエッジも高い(*注)という法則が見えてきます。プレイヤーの「大穴を過大評価する心理」を熟知した上で、それでもその枠に賭けてくれる人たちがいると知っているから高い控除率を設定できるのです。

本命-大穴バイアスは、「非合理な人間だけが陥る罠」ではありません。これは人間の脳が本来持っている確率認知の癖です。どんなに冷静なプレイヤーでも、無意識に大穴の魅力に引き寄せられます。

大切なのは、この原理を知っているかどうかです。カジノも競馬も、楽しむことが一番の目的。ただ、その楽しみをより長く、よりスマートに続けるために、バイアスの存在を頭の片隅に置いておいてみてください。

*注:ルーレットは高配当エリアも低配当エリアも控除率は同じです。

参考元:
Griffith, R.M. (1949): Odds Adjustments by American Horse-Race Bettors
Kahneman, D. & Tversky, A. (1979): Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk
Snowberg, E. & Wolfers, J. (2010): Explaining the Favorite-Long Shot Bias: Is it Risk-Love or Misperceptions?

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