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近年、東南アジアの中でも注目されていた「タイのカジノ合法化」。観光立国として名高いタイが、カジノを含む統合型リゾート(IR)を合法化するかどうかは、国内外の注目を集めてきましたが、今月、タイ政府はこのカジノ合法化法案の審議をいったん取り下げる方針を固めました。今後の見通しを含めて、ここまでの動きをやさしく振り返ってみます。
タイでは1935年制定の「ギャンブル禁止法」より国営宝くじと競馬以外のギャンブルは原則禁止され、以後、過去にも短期間で合法化の試みがありましたが、一時的かつ短命でした 。
しかしコロナ禍からの観光回復を急ぐ中で、「カジノ統合型リゾート(IR)」を整備すれば、富裕層を含む観光客の増加が期待できるとされ、政府は2024年4月「エンターテインメント複合施設法案」の検討を開始します。この法案についてオンラインでの世論調査では80%が支持との報告があり、 10月には副財務相が法案の枠組みを説明、IR(統合型リゾート)構想と併せてカジノ部分について議論が進みました。
タイは世界有数の観光大国ではありますが、ハイエンド層観光客の取り込みが課題となっています。カジノを含む統合型リゾート(IR)の整備により、富裕層やインセンティブ旅行(MICE)などを呼び込むことが狙いです。マカオ、シンガポール、韓国などがすでにIRで成功しており、競争力強化の観点でも必要とされています。
政府がカジノの合法化を検討した背景には、観光促進以外にも理由があります。タイでは現在も多数の違法ギャンブル施設が存在し、地下経済の温床となっています。カジノを合法化し、規制の枠内に取り込むことで犯罪組織とのつながりを断ち、かつ適切に課税して税収を得ることができるという考えです。政府試算では、カジノ合法化により年間数千億バーツ規模の税収が見込まれるとも言われています。
加えて、現在多くのタイ人がカンボジア・マレーシア・ラオスのカジノへ越境してギャンブルを行っている状況を、タイ国内に合法カジノを設ければ、ギャンブル需要を国内に取り込め外貨流出を防げるという考えです。
またカジノを含むIRは、ホテル・ショッピング・エンタメ・会議施設などを併設するため、インフラ開発の起爆剤となります。地方都市にIRを建設すれば、地域活性化・雇用創出が期待されます。
基本的には日本がIR創設を議論したのとほぼ同じ理由ですね。
2025年初め、政府は「カジノを含むエンターテインメント複合施設」を合法化するための法案を国会に提出しました。タイ国民が入場する際には、5,000バーツの入場料と、5,000万バーツ以上の預金証明が必要という制限を設けることで、過度なギャンブル利用を抑えようとしていました。
その後2〜3月には、規制強化と審議が進行していましたが、その後4月から6月にかけ宗教団体や市民から依存症・治安悪化などの懸念による反対運動が激化し、上院の調査委も「経済恩恵は限定的」と指摘し、撤回を求めていました。
加えて、タイのペートンタン・シナワット首相に対して隣国カンボジアとの国境問題の対応をめぐり反発が強まり、先月28日、首相の辞任を求める大規模なデモが行われました。また先週からは公的資金の使途や利益相反に関する倫理調査が開始されることが明らかになり、政府の正当性や信頼性に対して大きな疑念が生まれたことで法案審議を進める環境ではないという空気が高まりました。続く翌日には連立与党の一角を担っていたブムジャイタイ党が連立を離脱、同党はカジノ合法化法案に対して以前から懸念を表明しており、今回の法案審議の強行に反発した格好です。これにより、政府は議会での過半数を喪失。法案可決に必要な議席数を維持できなくなったため、政治的に非常に厳しい状況に追い込まれました。
このような複数の要因を受けて、タイ政府は法案を議会から取り下げるという措置を選びました。ただし、これは完全な撤回(廃案)ではなく、「一時的に審議を止め、適切な時期に再提出することを視野に入れた“保留”である」とのことで、再提出の可能性を明確に残した処置としています。政府は、2027年頃のIRライセンス入札開始を視野に、再提出に向けて国民向け説明・依存症対策・規制条項整備に注力する構えだそうです 。
参考元:
Reuters:Thailand’s cabinet shelves draft law for casinos
Thailand’s big casino gamble hangs on fine print of regulations
APnews:Thailand’s Cabinet withdraws a controversial bill to legalize casinos
日本経済新聞:タイ「カジノ合法化」法案撤回 内政混乱や世論反発
NHK:タイ首相の辞任求め大規模デモ 国境問題 対応めぐり反発強まる
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